コーポラティブハウス こころをかたちに Vol.16 - archinet コーポラティブハウス

こころをかたちに Vol.16

  • 01 「用の美」が息づく、自然とともにある住まい

  • 02 家族の暮らしに自然に寄り添う住まい

  • 03 景色と人に育てられる住まい

  • 04 妥協なきこだわりが育てた空間

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メインイメージ 目指したのは、ナチュラルで心地の良い空間

目指したのは、ナチュラルで心地の良い空間

住戸01 「用の美」が息づく、自然とともにある住まい

参加のきっかけ

住まい探しを始めてから、実はかなりの時間が経っていました。もともとこの周辺に住んでいて、当時は賃貸。子どもが二人になったことで手狭になり、「そろそろ購入を」と考えはじめたのがきっかけでした。 場所はこのエリアに絞り、予算を見ながらいくつかのマンションを検討しました。ちょうどコロナ前で、住宅ローンの金利も低く、「今がタイミングかもしれない」と思っていたのですが、どの物件もいまひとつ心が動かない。 特にファミリー向けマンションは、どうしても間取りや仕様がフォーマット化されていて、「こういう家に住みたい」と思えるものがなかなかありませんでした。自分たちの価値観や生き方が反映できる住まいを求めていたんです。 最初は中古のヴィンテージマンションを買ってリノベーション、という案も検討しました。でもその時期は価格が高騰していて、新築と変わらない価格帯。しかも、すでに業者が改修を済ませた状態で、スケルトンから手を入れられるような物件も少なかった。 そんなときに出会ったのが、アーキネットの「等々力みはらしテラス」でした。アーキネットのことは以前から知っていて、自分の知り合い関係にも住んでいる人がいましたし、仕事を通じて建築家と接することも多かったので、プロジェクトには親しみがありました。ただ、正直に言えば「アーキネット=高い」という印象を持っていました。 でも実際に自分で家探しを始めてみて、他の選択肢と比較してみたとき、ことさら高額ということはなく、考え方に対してのコストパフォーマンスの良さを感じました。お金の流れが見えるかたちで、納得感のある仕組み。それが決め手になり、迷うことなく参加を決めました。 私たちが選んだのはメゾネットタイプの住戸で、長方形のシンプルな形状に吹き抜けがあり、カスタマイズの自由度が高そうだと感じたのも、惹かれたポイントのひとつです。

住戸選び

(全11住戸のうち)この住戸を選んだ理由は日当たりと開放感でした。以前住んでいた社宅は築40~50年で、かつ、日当たりもイマイチでじめじめしていたんですよね。なので、そこから解き放たれたいという思いがありました。募集が始まった当初は、まだ敷地内に古屋があったので、その屋上に上がらせてもらい、眺望を確認しました。

大事にしたこと

家づくりにあたって、最初に設計担当の方と共有したキーワードは「用の美」でした。見た目ばかりにとらわれず、使いやすさや機能性から生まれる美しさを大切にしていきたいという考え方です。外とのつながりを意識しながら、開いたり閉じたりできる「余白」のある空間を目指しました。 家族は夫婦と小学生・保育園児の4人構成。個室にこだわるよりも、それぞれが「パーソナルな居場所」を持てるような空間づくりを意識しました。 プランは当初の設計案をベースに、「ここはこうしたい」「これは残したい」と少しずつ積み上げていきました。上下の空間の性格を意識し、上階は外とのつながりを感じられる空間、下階はパーソナルに籠れる空間として構成しました。 床には木材を使い、壁の高さやコンセントの位置まで細かく検討することで、自然と私たちらしい個性が表れていきました。いわゆる「北欧風」「クール系」といったスタイルを狙うのではなく、自然素材の良さを生かし、ナチュラルで心地よい空間を目指しました。 北向きという条件も、私たちにはプラスでした。落ち着きや包まれたような感覚があり、それでいて日当たりは十分にある。窓の外には国分寺崖線の緑が広がり、四季を身近に感じられます。 家づくりの主導は私が行い、妻は「予算に見合っているのか」という視点から全体をチェック。必要な説明は合理的に伝え、夫婦の合意を丁寧に重ねていきました。 インフィルでの見積もりが当初の想定からオーバーしてしまった際も、機能性に関してはきちんと投資すべきだと考えました。たとえば断熱にはこだわり、樹脂サッシ(※1)を採用して予算を上げましたが、それによって快適さと光熱費のバランスがしっかり取れています。

※1 樹脂サッシ 断熱性の高い樹脂製の窓枠

玄関脇スペース 階段とキッチンとつながりが感じられるよう設計されている。

玄関脇スペース | 階段とキッチンとつながりが感じられるよう設計されている

北向きの優しい光が入るリビングダイニングキッチン

北向きの優しい光が入るリビングダイニングキッチン

実際に暮らしてみて

実際に住んでみて、「本当に良かった」と感じる日々です。段階を踏みながら、自分たちの暮らしに馴染んでいく感覚があります。 竣工から入居の間には、ウッドショックや給湯器の納品遅れなど、社会的な転換期にあたり、少しバタバタした時期もありました。それでも住み始めてからの納得感はとても高く、時が経つほどに空間に「味」が出てきている気がします。 北向きの落ち着き、夏の緑の豊かさはとても魅力的で、旅行から戻ってきたときは、「うちの方がいいな」と思うことも。リビングから感じる緑、鳥や虫の音…東京にいながらこれだけ自然を感じられるのは、なかなかありません。 子育てにもとても良い環境です。公園がすぐ近くにあり、保育園も公園の中にあるので、日常の延長として自然の中で過ごすことができます。家族がこのエリアに根付いて、穏やかに暮らしている実感があります。 地階の魅力は、圧倒的な静けさ。崖上という立地のため風が強いこともありますが、地階にいると豪雨や強風の音が届かず、とても落ち着いて過ごせます。室内環境も安定していて、夏でも冬でもエアコン一台でほぼ過ごせています。吹き抜けを生かした間取りや、断熱性を高めたおかげだと思います。

アドバイス

家づくりで⼤切だと感じたのは、「⾃分の価値観」を知ること。世間⼀般で当たり前だと思われている暮らしのメリットデメリットは、実は住まい⼿の考え⽅や⾒⽅次第で全く違うものにもなります。たとえば、北向きや地下の住⼾に不安を持つ⽅もいるかもしれませんが、むしろ落ち着きがあり、快適で⼼地よい住まいになる可能性もある。まずはどんな暮らしがしたいのか、⾃分にとっての⼼地よさとは何かを知ることが、家づくりにおいてとても⼤切だと思いました。 コーポラティブハウスという選択肢は、もっと多くの人に知ってもらいたいと感じています。住まいの「デザイン性」というよりも、暮らし方や生き方を形にする手段として、とても価値があると思います。 また今の時代、⼈とのつながりが⽣まれる点でも素晴らしい価値があると思います。皆で住まう家づくりを通して、他の住⼈の⽅々とは⾃然と仲間のような関係を築くことができます。こうした新しい出会いにめぐり会えたことも良い経験でした。挨拶を交わし、自然な関係が築ける環境は、子どもにとっても社会性を育む良い機会になると思います。 昨年は、管理組合で世田谷区から杵と臼を借りて餅つきを行いました。コーポラティブの皆さんで集まり、季節の行事を楽しむことができる。そういう暮らしがここにはあります。

吹抜け越しに上階から下階を見下ろす

吹抜け越しに上階から下階を見下ろす

隣接環境の豊かな自然

隣接環境の豊かな自然

メインイメージ

住戸02 家族の暮らしに自然に寄り添う住まい

 参加のきっかけ

住まい探しを始めたのは、結婚して子どもが生まれたことがきっかけでした。当時は借上げの社宅に暮らしていましたが、自分の仕事柄、いつかは自分で家をつくってみたいという思いを強く持っていました。住関連のメーカーに勤めており、住まいに対する関心は人一倍あったと思います。 戸建てや新築マンションもたくさん見て回りましたが、予算内で自分のイメージする空間を実現するのは難しいと感じていました。そんな中、2011年に読んだ自社の広報誌でアーキネットのことが紹介されていて、初めてその存在を知りました。調べてみるうちにどんどん惹かれていきました。同じ号には、建築家の飯田善彦さんの記事も掲載されていて、等々力みはらしテラスを最初に見つけた時は、「これはもう運命かもしれない」と思ったのを覚えています。 当時探していたのは田園都市線や大井町線沿線の物件でした。ちょうど募集していたのが等々力のプロジェクトで、現地を訪れると、周辺の環境がとても魅力的に映りました。近くには公園やブドウ園があり、ニワトリもいて、自然を身近に感じられる子育てにもぴったりな場所でした。以前の住まいには公園がなかったので、大きな公園があるということは、私たちにとって大きなポイントになりました。 最寄駅から徒歩10分ほどという点も、許容範囲内。スーパーはやや遠かったのですが、今はネットスーパーを活用していて特に不便さは感じていません。

 大事にしたこと

私たちは共働きなので、設計ではとにかく家事動線にこだわりました。上階にはキッチンを、下階には洗面・風呂・トイレ・クローゼットを集約し、できるだけ効率よく動けるようにしています。洗濯物を干してそのままハンガーで仕舞えるなど、生活の流れをスムーズにする工夫を意識しました。 上下階での生活の役割分担も自然と決まり、上の階は私、下の階は夫が主に使うことに。お風呂掃除は息子の担当です。 ホームページの実績紹介で見た八雲コーポラティブハウスの杉板本実型枠(※2)によるコンクリートの壁に惹かれ、「自分たちの家にもぜひ使いたい」と思いました。 一階で過ごす時間が長くなることを想定し、床を400mm下げて天井を高くし、より開放的な空間に仕上げています。下の階は主にお風呂と就寝のためのスペースですが、子どもが勉強をしたり、普段はみんなでのんびり寝ころんだりしています。 設計が終わったタイミングで、下の子の妊娠がわかりました。性別もまだわからない段階でしたが、いざという時のために階段下のスペースを広げてもらうなど、柔軟に対応していただきました。 メゾネット型の住まいは、何かあった時に空間を分けて過ごせるので、子育て中の家庭には特に向いていると思います。 設備についてもこだわりがありました。トイレはTOTO製、キッチンはオールステンレスで角のシャープなものが欲しかったため、サンワカンパニーの製品を選びました。お風呂については本当は在来工法(※3)にしたかったのですが、最終的にはTOTOの「サザナ」に決めました。 元々スクエアな形が好きで、プランづくりには主に私が関わりました。夫は単身赴任中だったため、間取りなども私が主導し、出来上がったプランを見せながら説明していく形でした。キッチンなども自分で探して見積もりを取り、建築家に伝えて進めました。在来風呂やオーダーメイドの家具など、諦めた部分もありますが、結果的にすっきりときれいに収まっており、とても満足しています。

※2 本実型枠(ほんざねがたわく)杉目の型枠を使ってコンクリートに表情を出した壁 ※3 在来工法の風呂 現場でつくるオーダーメイドの浴室

吹き抜けの上部、階段脇に子供の勉強スペース

吹き抜けの上部、階段脇に子供の勉強スペース

サンワカンパニーでつくったキッチン

サンワカンパニーでつくったキッチン

 実際に暮らしてみて

暮らしやすい家だと感じています。冬は少し寒いときもありますが、それも含めて快適です。公園や図書館も近く、子どもたちにとっても楽しい環境が整っています。 隣の家のお子さんとも仲が良く、週末には一緒に公園へ出かけて遊んでいます。等々力みはらしテラス全体では男の子が多く、にぎやかで楽しい雰囲気です。 夏はとても涼しく、特に下の階は冷房をかけなくても快適に過ごせるほどです。寝室で冷房をかけると寒くなりすぎてしまうため、隣の部屋のエアコンを少しつけて調整するようにしています。「こうすれば良かったな」という点はほとんどありません。ただ、小さい子どもがいるので、当初はコンクリート打ち放しの硬さが心配で、転ばないように常に抱っこしていた時期もありました。

 アドバイス

コーポラティブハウスの魅力は、空間の自由度だけではなく、住民同士のつながりにもあります。お互いに気兼ねなく話せる関係性があり、何かあったときにも自然と助け合える雰囲気があります。 たとえば、子どもが鍵を忘れてしまったときには、いつもお隣の住戸にお世話になっています。電車が止まって迎えに行けないときなども、気軽に頼れるご近所さんがいるというのは、本当にありがたいことです。 この住まいは、家族それぞれの暮らし方に自然にフィットし、思い描いていた“自分たちらしい家”を実現してくれました。家事も、子育ても、日々の何気ない時間も、すべてがこの場所で心地よく流れてい——そんな住まいになっています。

コンクリートと見事に調和したスクエアのデザイン

コンクリートと見事に調和したスクエアのデザイン

風通しがよく、観葉植物の葉が揺れて気持ちがよい

風通しがよく、観葉植物の葉が揺れて気持ちがよい

床レベルを40センチ下げて天井高を高くしたリビング

床レベルを40センチ下げて天井高を高くしたリビング

メインイメージ

住戸03 景色と人に育てられる住まい

 参加のきっかけ

最初にコーポラティブハウスという言葉を聞いたのは、アーキネットの社員の方とたまたまバーで隣り合わせになったときでした。30代の頃の話で、ちょうどマンションを探し始めようとしていたタイミング。「へぇ、そんな仕組みがあるのか」と思いながらも、その時は一歩踏み出せず、参加しかけて終わっていました。 その後、結婚し、知人の多い多摩川近辺で住まいを探すようになりました。分譲マンションのモデルルームにも足を運びましたが、どこかしっくりきませんでした。「パッと見て心地よい」と思える場所に出会えなかったのです。 振り返ってみると、モデルルームの多くは「無駄がなさすぎる」と感じました。コストパフォーマンスは確かに良いのですが、天井の高さも控えめで、素材や質感も平均的。大きな窓や広いテラスに感じるような“ワクワク感”がなかったのだと思います。 そんな時、ふと思い出したのがアーキネットの存在。「そういえば、あの会社が多摩川で何かやっていないかな」と調べてみたところ、ちょうど募集しているプロジェクトがあり、すぐに話を聞きに行きました。 等々力みはらしテラス担当の方の人柄にも背中を押されました。既存家屋の3階に一緒に上がって、そこからの景色を見たとき、「ここに住もう」と自然に思えたんです。視界が開けて地平線が見え、隣人と視線がぶつからない構成も落ち着ける理由のひとつでした。

 大事にしたこと

最初から「こうしたい」という強い希望があったわけではありません。けれど、建築家と打ち合わせを重ねる中で、模型やプランを見ながら少しずつ自分たちの好みが見えてきました。 「床はどうしますか?」「壁は?」「窓は?」と尋ねられるたびに、これまで意識していなかった好みがはっきりしていったのです。フローリングの色や肌触りの違いにも敏感になっていきました。キッチンの天板や本棚など、完成して初めて「これは自分の好きなものだった」と実感できたものも多かったです。広い空間に憧れていたのもあり、個室は最小限に抑え、リビングとキッチンを広く確保しました。昔の住まいは四畳半の部屋が連なるような間取りだったので、家族が一緒に過ごせる場所がひとつあるというのは、とても新鮮で心地よく感じます。 キッチンは、シンクやコンロのサイズから検討し、いくつかのメーカーも見に行きましたが、最終的にはオーダーキッチンで仕上げました。テラスでは七輪を使って焼き肉をしたりと、季節ごとの楽しみもあります。家での暮らしが変わると、外にお酒を飲みに行くことも自然と減りましたね。生活全体がゆるやかに、でも確実に変わったように思います。

フルオーダーで仕上げたキッチン

フルオーダーで仕上げたキッチン

階段の脇に設けた書斎コーナー

階段の脇に設けた書斎コーナー

 実際に暮らしてみて

遠くまで見渡せるというのは、人間の本能なのかもしれませんが、とても気持ちがいいものです。安心感がありますし、ただぼんやりと眺める時間が、とても贅沢に感じられます。 「実際に目で見て、自分がいいな」と思えるものが、少しずつ形になっていくプロセスには、大きな楽しさがありました。選択肢の中からひとつずつ選んでいき、施工会社の現場監督さんとも話を重ねながら進めた2年間弱は、本当に充実していました。自分で選び取ったものには納得感があります。 朝、子どもを保育園に送った帰り、出勤するご近所さんと「いってらっしゃい」「こんにちは」と挨拶を交わす。東京の真ん中で、そんな自然なコミュニケーションがあるのは、とても新鮮で嬉しい驚きでした。 また、昨年は、管理組合で世田谷区から道具を借りて餅つきを行いました。東京で「餅つき」をするなんて、コーポラティブハウスに住んでいなければ一生経験しなかったかもしれません。ずっとやってみたいと思っていて、初めて開催しました。今後は管理組合の毎年恒例の行事にしたいと思っています。小さな子どもたちにとっても、貴重な体験になると思っています。 お子さんがいないご近所の方から「ここの子どもたちが大きくなって、もしグレたら自分が相談に乗れる存在になれたら」と言われたことも印象的でした。さまざまな大人が身近にいることを、子どもたちが小さいうちから知っておける環境は、何よりの学びになるのではないかと思います。 夏にはバーベキューも恒例で、炭火を起こすのが得意な方、道具を持ち寄る方、それぞれの得意を生かして一緒に楽しんでいます。思っていた以上に楽しく、こんなふうに暮らせるとは思っていませんでした。

 アドバイス

住まいをつくるには「手間がかかる」とよく言われますが、実際にはその手間のひとつひとつが面白くて、思っていたよりもずっと楽しいものでした。 家づくりにおいては、時間をかけてじっくり話し合い、選び取っていくプロセスこそが醍醐味です。もちろん、誰にでも合うとは限りませんが、少しでも興味のある方には、ぜひ経験してみてほしいと思います。

光がさんさんと注ぐリビング空間

光がさんさんと注ぐリビング空間

階段脇につくりつけた本棚

階段脇につくりつけた本棚

この場所でしか手にすることのできない見晴らしのいいリビング

この場所でしか手にすることのできない見晴らしのいいリビング

メインイメージ

住戸04 妥協なきこだわりが育てた空間

 参加のきっかけ

東京に来てから6〜7年。もともとは池上線の御嶽山駅近くに住んでいて、コンクリート打ち放しのデザイナーズマンションに3〜4年ほど暮らしていました。 コロナ禍で在宅勤務が中心になったことをきっかけに、「もっと自分らしい住まいが欲しい」と思い、住まい探しを始めました。自由が丘で見かけた広告が目に留まり、いろいろ調べる中でアーキネットの存在をインターネットで知りました。 天井が高く、打ち放しのデザインという条件が自分の好みにぴったり合っていて、気になりはじめました。知り合いの建築家にもリフォームを相談したことはありましたが、中古マンションのリノベーションは意外と費用がかかる。なかなか「これだ」と思える案件に出会えない中、等々力のプロジェクトの存在を知り、惹かれました。 半年ほど検討を重ね、最終的に残っていた一戸に申し込みを決めました。プラン上は“地下”という位置づけでしたが、天井高は3メートル近くあり、空間としての魅力に納得して決断しました。世田谷エリアの見学会などにも参加しながら、空間の使い方や仕様にも理解を深めていきました。

 大事にしたこと

大前提として、「打ち放しのコンクリート」と「天井の高さ」は譲れないポイントでした。実際にその希望はしっかりと叶えられました。 住まいのプランに関しては、元々の内装が取り払われた、構造壁だけの状態をそのまま活かすことに決め、とにかく仕切りは一切つくらないことに。もともとのレイアウトが良かったこともあり、構造壁の向こうにベッドスペースを設けるだけで、十分に機能する空間ができました。 内装では、色を極力使わずにグレーを基調に統一。コンセント、壁、床材までグレーにこだわり、色を差すことは意識的に避けました。 設計事務所・施工会社・プロデューサーと自分の四者で、妥協せず「こうしたい」「ここは難しい」「じゃあどうすればできるか」を粘り強くやりとりし、少しずつ理想を形にしていきました。 たとえば、私が検討していたローンの条件上、壁の断熱仕様に制限があり、断熱材+塗り壁にする案もありましたが、それを外して打ち放しのままにすることにしました。窓は一枚ガラスにして、フレームもできるだけ細く、鉄製にこだわって塗料まで自分で探しました。 バスタブはドイツ製の製品を選び、都内ホテルで実物を確認してから導入を決定。浴室は全面ガラス張り、床はモールテックス(※4)、打ち放しの壁もそのまま残し、湿気対策として定期的な掃除も意識しています。 キッチンもこだわりのひとつ。日本の住宅は女性の身長に合わせてつくられていることが多いですが、自分でも料理をするので天板の高さは950mmに調整。扉付きのキッチンが好きではないため、あえて「扉なし」で設計しました。 世田谷の見学会でミーレの洗濯機に触れ、性能やデザインに惚れてシルバーカラーを導入。床材も当初はコルクの再生材を提案されましたが、「やはりグレーがいい」と伝えたところ、フレキシブルボード(※5)という選択肢を出してもらい、加工に手間がかかる中でも実現してもらいました。 設計段階でほとんど失敗はなく、唯一あるとすれば、コンセントの数くらいでしょうか。もう少し多くしておけば良かったと思う時があります。

※4 モールテックス 防水性が高く、左官で仕上げる素材 ※5 フレキシブルボード 工業用のグレーの板材

1階のスペースは動画の配信用のスペース

1階のスペースは動画の配信用のスペース

天板のみの、シンプルなキッチン

天板のみの、シンプルなキッチン

扉もない浴室 1日3~4時間過ごすことも

扉もない浴室 1日3~4時間過ごすことも

 実際に暮らしてみて

もうすぐ住んで2年になりますが、配偶者は毎日「この家、ええわ」と言っています。本当に、この住まいに満足しています。シンプルに仕上げたことで、なかなか飽きることがなく、家にいるのが楽しくて、外に出たくならないほどです。 室内に差し込む光の角度や季節によって移ろう景色を感じられるのも、この空間ならでは。音楽をかければ、空間全体が豊かになり、まるで自宅がカフェのようです。 家の中に居場所がたくさんあり、友人やご近所の方も自然と長居してしまう、そんな空間になっています。 地下という位置づけではありますが、実は景色がとてもよく、朝には富士山が見える日もあります。住みはじめて1年ほど経ったタイミングで、テラスにウッドデッキを貼りました。 最初は「地底みたいにならないか」と心配していたテラスの壁は、結果的には室内側へ入り込む風を防いでくれる効果があり、むしろ居心地の良さにつながっています。

 アドバイス

「つけようか迷っている」ものは、結局いらないです。逆に、「これは必要」と思ったものは、無理をしてでも建築家にお願いするべきです。取り返しがつかないところほど、妥協しない方がいいと実感しています。 たとえば、寝室にスクリーンを貼ろうかと悩みましたが、最終的にはコンクリート壁に直接投影することにしました。多少解像度が落ちても、それで充分。クローゼットも置かず、空間の自由度を優先しました。 掃除もしやすく、浴室の天井は定期的に掃除してカビを防いでいます。浴室に窓を設けたのは、配偶者の強い希望でした。今では1日3〜4時間お風呂で過ごすほど気に入ってもらえています。 ベッド下の収納は、工務店の方が工夫して実現してくれました。上階については今のところ何も決めておらず、とりあえず動画配信や演奏撮影のスタジオとして活用しています。


この住まいは、自分の「好き」をひとつひとつ積み重ねてできた空間。建築家やプロデューサー、施工会社と対話を重ねながら、納得のいくまで考え抜いたからこそ、いまこうして「毎日、ええわ」と思える住宅になりました。

こだわりぬいた床素材のフレキシブルボード

こだわりぬいた床素材のフレキシブルボード

高さ95センチの扉なしキッチン

高さ95センチの扉なしキッチン

地下のリビングから富士山が見えるとは想像が及ばなかった

地下のリビングから富士山が見えるとは想像が及ばなかった

  • 01 「用の美」が息づく、自然とともにある住まい

  • 02 家族の暮らしに自然に寄り添う住まい

  • 03 景色と人に育てられる住まい

  • 04 妥協なきこだわりが育てた空間